本研究の主要な目的の一つは、グレリンの心臓交感神経抑制作用を応用し、心筋梗塞に伴って発生する致死性不整脈を抑制することである。当該年度は、内因性グレリンの致死性不整脈抑制作用について検討することを計画しており、予定通り研究を実施した。実験には、野生型マウス(WT)および、グレリンノックアウトマウス(グレリンKO)を用いた。心筋梗塞モデルは、イソフルレン吸入麻酔下において、冠動脈を結紮することによって作製した。結果、グレリンKOにおいては、冠動脈結紮後30分以内に、17%のマウスにおいて致死性心室性不整脈による死亡が確認された。一方WTにおいては、致死性心室性不整脈による死亡は2%に留まった(統計学的有意差あり)。また術後2週間の観察期間においても、WTの死亡率が59%であったのに対し、グレリンKOは74%であった(統計学的有意差あり)。次に、当初の計画に基づき、術後2週目で圧・容積測定カテーテルにて心機能を測定したところ、左室駆出率は、グレリンKOにおいてWTより低値であった(16% vs 25%、統計学的有意差あり)。また心臓収縮性の指標であるEesおよびPRSWも、グレリンKOにおいてWTより低値であった(統計学的有意差あり)。心エコーでの観察においては、%Fractional Shorteningが、グレリンKOで有意に低値であった他、左室後壁の代償性肥大もグレリンKOでWTよりも顕著であった(ともに統計学的有意差あり)。さらに心臓重量および肺重量のtibial length補正値も、ともにグレリンKOでWTより高値であった(統計学的有意差あり)。以上より、内因性グレリンは心筋梗塞急性期の致死性不整脈を抑制し、死亡率を改善する作用を有すること、および慢性期心臓リモデリングを改善していることが示唆された。
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