まず、造血幹細胞から未熟巨核球へと分化運命が決定する過程と未熟巨核球が多核化し成熟した多倍体巨核球、最終的に血小板放出へと向かう巨核球成熟過程の経路を詳細に捉えるために、フローサイトメトリーを用いた多重染色法による骨髄中の未分化細胞における最も未熟かつ巨核球へ分化運命が決定した細胞(Megakaryo-Progenitor;MKP)の同定を行った。その結果、従来骨髄球共通前駆細胞(CMP)分画と考えられていたCD34+/c-Kit+/Sca1-/Lin-分画の一部で巨核球分化抗原の一つであるGPIbα(CD42b)の発現が見られ、この分画の細胞は芽球様の形態であるものの巨核球への排他的な分化能を有しており、純粋なMKPと考えられた。この細胞は従来考えられていた、赤血球・巨核球共通前駆細胞(MEP)を介さない分化経路上にあり、長期骨髄再建能を有する造血幹細胞を多く含むCD150陽性c-Kit+Sca1+Lin-分画から直接的に分化する事が、短期液体培養とコロニーアッセイの結果示唆された。 また、この分画の細胞では、Notchシグナルの下流因子であるHes1が高発現していることがRT-PCR法で明らかとなり、骨髄凍結切片の蛍光免疫染色の結果、Delta4を発現する血管内皮・間質細胞と近接しており、Notchシグナルが造血幹細胞からこのMKP分画の細胞へと分化する過程(分化運命決定段階)またはMKP細胞が多倍体巨核球へと成熟する過程(巨核球成熟過程)において、何らかの役割を担っている事が示唆された。 造血幹細胞分画にレトロウイルスを用いてHes1を強制発現すると、Gr1/Mac1陽性の顆粒球系細胞への分化が抑制される一方、c-Kit陽性CD41陽性の造血前駆細胞の著明な増加が認められる一方当GPIbα陽性細胞への分化は抑制されていた。しかし、その一方でHes1のC末欠損変異体(ドミナントネガティブ変異体)を巨核球前駆細胞由来のセルラインUT7/TPOに導入すると、成熟巨核球への分化は抑制された。 この結果から正常な巨核球分化においては、Notch-Hesシグナルの時間的量的な綿密な制御が必須である事が考えられ、これらの破綻が急性巨核芽球性白血病をはじめとする疾患発症の原因となりうる事が示唆された。
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