研究概要 |
成人T細胞白血病(ATL)は、化学療法等の治療法の進歩に関わらず平均生存期間は10.9ヶ月と予後不良であり、白血病による死亡者数の約14%にのぼる。がん細胞へのエネルギーの供給には、脂肪酸代謝が重要な役割を果たしており、NAD^+依存性ヒストン脱アセチル化酵素であるSIRT1は、細胞内エネルギー代謝センサーとして脂肪酸酸化を促し生命機能に関与する。本研究ではATLにおけるSIRT1機能を解析し、そのATL治療応用への可能性を検討した。 急性型ATL患者におけるSIRT1の発現は増加しており、既存のSIRT1阻害剤であるSirtinolは、急性型ATL患者細胞の細胞生存率を有意に低下させた。また、SirtinolはATL関連細胞株のアポトーシスを誘導した。その際、NF-κB活性の低下及び核内SIRT1の発現の減少が認められた。更に、NAD^+添加によるSIRT1の活性化がSirtinolのアポトーシス誘導作用を増強した。そのアポトーシス誘導作用は、caspase-3,8,9の活性化を介していたが、SIRT1及びp53の発現に変化は認められなかった。以上の結果より、ATL関連細胞においてSIRT1活性化因子及びその阻害剤が、それぞれ異なる経路でアポトーシスを誘導し、その作用はp53非依存的であることが示唆された。本研究により、SIRT1の活性化剤と阻害剤の相乗効果による効率的なATL治療法の可能性に関する研究基盤が確立できた。
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