食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)発症の機序は、運動負荷などの二次的要因が腸管からの抗原の吸収を増強させている可能性が示唆されるが、その病態機序、及び、吸収された抗原の生体内における動態は明らかでない。これまで、当研究室において、小麦摂取と運動負荷により症状が勝発された血清において、症状の出現に先行して血中のグリアジン濃度が上昇していることを明らかにした。本研究は、小麦が原因となるFDEIA患者の勝発試験時の血清において、血中の小麦タンパク質を質量分析計を用いて同定・定量し、症状の誘発と相関する血中小麦タンパク質の体内動態を明らかにすることを目的としている。 初年度は、症状の発現前と発現時の血中小麦タンパク質を相対的に定量することを試みた。対象は、経口負荷試験時にアレルギー症状を呈した2名の患者とし、対照は1名の健常人とした。用いた血清は、患者の経口負荷試験前、及び、症状発現時の血清、及び、健常人の経口負荷試験前、及び、負荷試験開始後60分後の血清とした。70%エタノールにて分画した血清タンパク質をトリプシン消化し、生じたペプチドをiTRAQ試薬でラベルした。MALDI-TOFTOFにてレポーターグループのシグナル強度とMSMSフラグメントを測定し、MASCOTサーチエンジンで解析した。その結果、血清中に小麦タンパク質は観察されなかった。この理由として、小麦グリアジンのアミノ酸配列はトリプシン認識配列が乏しいため、生じたペプチドの質量が本法に不適であること、また、データベースに登録されている小麦タンパク質の種類が少ないため、タンパク質の同定率が低くなったことが原因と考えられた。次年度は、他のプロテアーゼを用いて既知の小麦タンパク質をターゲットとした選択反応モニタリング法を用い、症状出現時に増加する小麦タンパク質を定量する。
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