研究概要 |
上皮細胞が損傷に応じて産生するサイトカインTSLPは,免疫系への抗原提示を担う樹状細胞に作用することで宿主の免疫応答をアレルギー性炎症へ向かせている。そこでTSLPの作用を阻害することができればステロイド剤による非特異的免疫反応抑制とは異なる特異的な抗アレルギー戦略となる可能性が高い。阻害戦略を確立するにはまずTSLPの細胞への作用機構を明らかにする必要があるが,TSLPがいかなる細胞内情報伝達経路を活性化するのかは私どもの先行研究でその一端が明らかになったものの(Arima et al.Sci.Signal 3:ra4,2010),未だにその全容は解明されていない。 平成23年度には,前年度までに確立できなかったTSLP刺激に応じてヒトプライマリー樹状細胞を模倣するような多彩なシグナル伝達経路の活性化が観察される細胞の探索を行った。その結果,ある種のヒト細胞株にTSLP受容体を過剰発現させることでSTAT1,STAT6,PI3K,MAPKと後半なシグナル経路の活性化が観察できることが分かった。今後,この細胞株を用いることでTSLP受容体の会合分子の同定などTSLPシグナル伝達経路の詳細な解析が可能になることが期待できる。 さらに,当初の研究実施計画に従い,TSLP刺激と微生物由来リガンド刺激との比較に基づくアレルギーシグナル伝達経路の解明に取り組んだ。ヒト樹状細胞においてSTAT4タンパク質の発現はTSLP刺激では見られず,微生物由来リガンド刺激によって特異的に誘導されるが,種々のキナーゼ阻害剤を用いることにより単離直後の刺激前樹状細胞におけるSTAT4タンパク質の発現抑制に関わる分子を同定することができた。以上のような新たな知見,および実験材料の整備によって今後アレルギー発症の分子機構に迫る研究を展開することが可能になると考えている。
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