MCTDや強皮症といった膠原病の難治性病態の一つである肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺動脈の内腔狭窄で、血管平滑筋および内皮細胞の増殖と線維化からなるリモデリングによって形成される。近年、循環血中の単球が局所にリクルートされ、血管新生や線維化病態に関わることを示す知見が集積されている。申請者の所属する研究グループは、ヒト末梢血単球のサブセット(単球由来多能性細胞)が間葉系細胞や血管内皮への分化能を獲得することを発見し、強皮症の末梢血管内腔狭窄病変の病態形成における中心的役割を果たす可能性を見出した。PAHにおける肺動脈病変の病理像も類似していることから、末梢血単球の多分化能や組織修復に関する成果を、PAH-CTDの病態解析に応用することとした。そこで、今回は末梢血単球の遺伝子発現を網羅的に検討することで、膠原病に伴うPAH病態における単球の役割を追究することを目的とした。 背景因子を一致させたPAHを有する強皮症3例とPAHのない強皮症3例から末梢血CD14+単球を分離し、PCRアレイ法を用いてケモカイン、細胞外マトリックス、TGFβ/BMPシグナル、血管内皮に関わる計318遺伝子の発現を比較した。その結果、PAH症例で発現の高い17遺伝子と発現の低い17遺伝子が抽出された。発現が亢進した遺伝子の中ではケモカインとその受容体や細胞接着分子が、発現が低下した遺伝子の中では、TGFβ/BMPシグナル分子や細胞外マトリックス分解酵素関連の遺伝子が主に見出された。以上から、本研究では、末梢循環障害をもつ強皮症症例の末梢血単球を用いたが、PAHの有無により末梢血単球の遺伝子発現が異なることが示された。また、これら遺伝子の既知の機能から、末梢血単球が遊走や、接着能の亢進を介して肺動脈のリモデリングに関わる可能性が示唆された。
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