研究概要 |
プリオン病はヒトを含む各種動物に見られる空砲変性を特徴とした脳内病理変化を伴う難治性中枢神経変性疾患である。これまで病原体(プリオン)は、正常型プリオン蛋白質(PrP^c)の構造変換によって作られる異常型プリオン蛋白質(PrP^<Sc>)とされているが、感染経路などの詳細なメカニズムは不明な点が多い。本研究では自然免疫シグナルカスケードに着目し,プリオン感染との因果関係を明らかにすることを目的とした。H22年度では、プリオン持続感染細胞においてウイルス由来のdsRNAに対し働くMyD88非依存シグナルカスケードの代表的な因子であるRIG-1、TLR3、,IRF3その下流の因子IFNbetaなどに有意な発現減少が確認された。またIRF3は、プリオン持続感染細胞におけるPrP^<Sc>の発現を制御することも明らかにしたことから、MyD88非依存シグナルカスケードがプリオン感染に重要であることを提起した。本年度では、「プリオンの"感染"と宿主の防御機構」に着目し、以下の研究を行った。まず、IRF3ノックアウトIRF3^<-/->)マウスを用いて、in vivoプリオン感染実験を行った。異なる3種のプリオン株、22L(スクレイピー由来)、Fk-1(GSS由来)、mBSE(BSE由来)のプリオン感染においてIRF3^<-/->マウスは野生型に比べ有意に早期の病態発症が確認され、22L株感染後25週のIRF3^<-/->マウスの脳における空胞変性、グリオーシスの程度は、野生型に比べ重度であった。さらにプリオン病発症マウスの脳乳剤を非感染細胞に添加し、PrP^<Sc>の発現について検討するin vitroプリオン感染実験において、IRF3恒常的過剰発現細胞群は、コントロール群に比べプリオン感染に対し抵抗性であった。これらの結果より、MyD88非依存シグナルカスケードの中でもIRF3がプリオン感染の初期に重要な役割を担っていると考えられる。今後、IRF3を介したシグナルカスケード因子によるプリオン感染防御機構のより詳細なメカニズムを明らかにすることにより、実用化に向けた治療薬および予防薬開発の研究分野が発展すると考えている。
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