知覚、認知を営む大脳皮質が正常に機能するには、神経連絡が質、量ともに確保される必要があり、その形成異状が自閉症を含む発達障害の原因となる可能性が指摘されている。我々は、発達障害の発症リスク因子であり、脳の機能的発達の鍵を握る「神経栄養因子」のシグナル伝達の不全が大脳皮質神経回路の形成に及ぼす影響を明らかにすることで、病因解明のための糸口を探ることを目的としている。 本研究では、代表的な神経栄養因子であるニューロトロフィン(NTs)の受容体p75^<LNTR>のシグナル伝達不全による影響を調べている。本年度は特にp75^<LNTR>とソーチリンが複合体をなして伝達するシグナルの影響を中心に解析した。具体的には、それぞれの完全型、変異型タンパク質を発現するベクターを電気穿孔法を用いて発達期の大脳皮質神経細胞に導入し、その影響を調べた。前年度の成果から、胎生期の大脳皮質組織構築期に及ぼす影響は小さいことを明らかにしており、神経回路構築に及ぼす影響を調べた。 対象として用いた蛍光緑色タンパク質のみ、あるいは、完全型ソーチリン/p75^<LNTR>を発現させたラット副腎髄質由来褐色細胞腫(PC12細胞)と比較して、それぞれの変異型を発現させたPC12細胞では、ニューロトロフィン添加時におこるERK1/2のリン酸化が抑制された。また、これらの変異体を導入した大脳皮質神経細胞ではGFPのみを発現させた神経細胞と比較して、標的領域への投射線維数が変化していることが明らかになった(未発表)。
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