研究概要 |
これまでにインフルエンザ脳症の発症の機序として炎症性サイトカイン、NOx、酸化ストレスの関与が報告されている(Kawashima et al. Neuropediatrics 34:137-140, 2003, Yamanaka et al. J Neurogical Sciences 243:71-75, 2006)。さらに解熱剤であるジクロフェナックナトリウムの使用がインフルエンザ脳症患者の死亡率を上げることが報告されている(Mizuguchi et al. Acta Neurol. 115:45-56, 2007)。申請者らはラットのアストロサイトにおいてジクロフェナックナトリウムと炎症性サイトカインの同時刺激が、iNOS mRNA、iNOSタンパクの発現を誘導し、その結果、NOx産生を増強し、細胞障害を引き起こすことを明らかにした。さらにそれらの作用はNFκBを介した細胞内シグナルが関与していることを明らかにし、インフルエンザ脳症増悪のin vitroのモデルとして解析を進めてきた(Kakita et al. Toxicol Appl Pharmacol 238:56-63, 2009)。 申請者らは哺乳1日齢のラットから培養したミクログリアを使用し、アストロサイトと同様にジクロフェナックナトリウムと炎症性サイトカインの同時刺激が、iNOS mRNA、iNOSタンパクの発現を誘導することを見出した。さらに誘導されたiNOSにより、ミクログリアが活性化し、その貪食能が増強することを見出した。このミクログリアの活性化はイブプロフェンやインドメタシンなどの他の解熱鎮痛剤ではみられなかった。今後はNFκBなどのシグナルがミクログリアの活性化に、どのように関与しているかを検討していく予定である。インフルエンザ脳症患者へのジクロフェナックナトリウムがその死亡率を上げることは、これまでに報告されているが、その理由については明らかになっていない。本研究により、現在もなお予後不良疾患であるインフルエンザ脳症の病因、治療法の開発に貢献できるものと考える。
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