我が国において血友病治療は、血漿由来および遺伝子組換え血液凝固因子製剤を輸注する補充療法が確立されており、30年前と比較して患者QOLは確実に良くなっている。しかし血液凝固因子製剤は高額であり我が国の医療費を圧迫している。また世界的にみれば、約半数の患者が十分な治療を受けることができていない。そこで、すべての患者に対して行える安全でかつ有効な次世代の血友病治療として遺伝子治療ならびに細胞療法の確立が期待されている。我々はすでに血友病Aマウスモデルで自己末梢血から単離培養した血管内皮前駆細胞(Blood Outgrowth Endothelial Cells:BOECs)にレンチウイルスベクターで血液凝固第VIII因子(FVIII)をEx vivoで遺伝子導入した後血友病Aマウス皮下へ移植する方法で、約半年にわたり2-5%のFVIIIを持続発現することに成功している。 本年度は血友病イヌモデルでの細胞移植実験に向けたFVIII発現実験を行った。昨年度に引き続き単離培養し樹立に成功したイヌBOECsに4種類の異なるプロモーター制御FVIIIレンチウイルスベクターによるFVIII産生をin vitroで検討した。その内、EF1αプロモーター制御FVIIIレンチウイルスベクターが低いMOI(multiplicity of infection)で、かつ、細胞毒性を認めることなく高いFVIII発現量を認めた。現在、レンチウイルスベクターのサイレンシングによるFVIIIの発現がストップしないか長期間のFVIII持続発現の検討ならびに、FVIII高発現細胞クローンの選択を行っている。また細胞移植に際して必要なイヌ自己フィブリノゲンの作製ならびにイヌクリオプレシピテートの作製を並行して行っている。さらに細胞移植にともなうFVIIIインヒビター発生に対する予防として、イヌFVIIIに対する免疫寛容獲得を目指し遺伝子組換えイヌFVIIIの輸注を定期的に行っている。
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