脳形成過程において脳室周辺で誕生した未成熟神経細胞は脳表層側へ向かって移動し、特定の層や神経核へと配置される。この移動の過程に異常が生じるとてんかんや精神遅滞を伴う滑脳症などの脳奇形が惹起されることから、神経細胞移動は脳が正しく機能するために必須な発生段階であると考えられるが、その分子機構については未解明な点が多い。特に「ロコモーション移動」は、移動の最も長い距離を占めている重要な過程であるにも関わらず、多極性など複数の過程を経た後に行われるため、従来の実験手法では移動のより早い段階の二次的な影響を排して直接特定の分子の機能を抑制する実験が困難であった。本研究ではロコモーション移動の制御機構を分子レベルで理解することを目指し、簡便に個体への遺伝子導入を行える「子宮内エレクトロポレーション法」と大脳皮質のスライス培養法を組み合わせることにより、ロコモーション細胞で特定の分子の機能を抑制する実験を行った。初年度の今年は、機能阻害剤を用いてロコモーション移動に関わる分子のスクリーニングを行った。その結果、Ro31-8220、Go6976、Rottlerinなどの機能阻害剤の添加によりロコモーション移動に異常が生じることが確認された。また細胞骨格系への影響を調べるために大脳皮質の初代培養細胞にこれらの機能阻害剤を添加すると、Rottlerinなどの添加により微小管の配向に影響を与えることが観察された。ロコモーション細胞の移動は、先導突起の伸長、核の移動、後方突起の退縮など様々な段階からなるため、今後は機能阻害剤の標的分子がロコモーション移動のどの段階の制御に関与しているかを解析していく予定である。
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