脳形成過程において脳室周辺で誕生した未成熟神経細胞は脳表層側へ向かって移動し、特定の層や神経核へと配置される。この移動の過程に異常が生じるとてんかんや精神遅滞を伴う滑脳症などの脳奇形が惹起されることから、神経細胞移動は脳が正しく機能するために必須な発生段階であると考えられるが、その分子機構については未解明な点が多い。神経細胞移動はその様式が多段階に分けられるが、特に、脳表層近くで行われるロコモーション移動は、他の段階の後で行われるため、その分子機構を直接解析することが難しかった。昨年度までに、大脳皮質のスライス培養法を用いた阻害剤スクリーニングにより、神経細胞移動の中でも特にこれまで直接的な解析が難しかったロコモーション移動に影響を与える阻害剤を絞り込み、スクリーニングによって得られた阻害剤の標的分子がそれぞれ神経細胞移動のどの段階を制御しているかを画像解析を用いて調べた。しかし、平成24年1月に発表された論文において形態変化の解析に重要な要素が新たに示されたため、追加実験・詳細な分析の必要が生じた。本年度は必要な追加実験・詳細な分析を行い、これらの解析から得られた情報を統合することにより、ロコモーション移動の機構を総合的に理解することを目指した。 その結果、核の形態変化、先導突起の形態変化にCdk5などの分子が関与していることが示され、複数の段階が連続的に行われることによってなされる神経細胞移動の機構の一端を明らかにすることができた。
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