研究概要 |
3種のアイソタイプのうち2型イノシトール三リン酸受容体(IP3R)の発現様式を観察した。2型IP3Rノックアウトマウスは、翻訳開始領域に続いてLacZ遺伝子を挿入しているため、LacZ染色で詳細に内在性の2型IP3Rの発現を観察することが可能である。平滑筋マーカーであるα smooth muscle actin(αSMA)と血管内皮マーカーであるPECAMとの二重染色を試みた。胎生14日から生後1か,月のマウス肺組織において、2型IP3Rの発現を表すLacZ陽性細胞は同時にαSMAが陽性であった。また、興味深いことに、αSMAは肺動脈のみならず肺静脈や気管・気管支平滑筋も陽性である一方、2型IP3Rの発現を示すLacZは気道と併走する血管、すなわち肺動脈と考えられる血管平滑筋に特異的に観察された。さらに、肺動脈主幹部や上行大動脈では内膜と中膜が、動脈管や下行大動脈では内膜のみが、そして左右の肺動脈以降の末梢肺動脈では中膜のみがLacZ陽性であった。したがって2型IP3Rは血管の部位によって発現領域が異なることがわかった。体血管ではなく肺血管の中膜に特異的に発現していることから、IP3-IP3Rシグナルは、体血圧に影響なく肺動脈の血管トーヌスを調整する因子の一つである可能性が示唆された。現在、低酸素飼育およびモノクロタリンピロール静脈注射による肺高血圧モデルマウスを作製し、2型IP3Rを欠失させた影響を解析中である。IP3-IP3Rシグナルの上流に存在するG蛋白共役型受容体の細胞外リガンドにはEnodothelim-1などの肺動脈を増悪させる因子とApelinなどの肺高血圧を軽減させる因子の両者があり、2型IP3Rノックアウトマウスでは肺高血圧が改善する可能性も増悪する可能性もある。心臓超音波検査と右心室自由壁-左心室重量比測定、肺組織切片を用いた肺動脈の中膜肥厚の観察により詳細に検討している。
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