遺伝子発現調節機構のひとつであるヒストン修飾作用と社会性行動障害との関連性を調べるため、ヒストン修飾作用の一つであるヒストンのアセチル化を調節しているヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)に着目し、脳内におけるHDAC活性をin vivoで観察するために、ポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)による生体イメージングを行った。HDAC活性を可視化するためのPETプローブには、ヒドロキサム酸系HDAC阻害剤であるsuberoylanilide hydroxamic acid (SAHA)の構造類縁体であり、ポジトロン放出核種のフッ素18(F-18)を標識した6-([F-18]-fluoroacetamide)-1-hexanoicanilide ([F-18]FAHA)を用い、ラットおよびマカクサルの脳内PETイメージングを行った。ラットおよびマカクサルの脳内HDAC活性を可視化する事に成功し、また、in vivoでの酵素活性測定法を確立した。また、死後脳の組織切片によるHDACの免疫染色を行った結果、PETイメージングで得られた脳局在と一致したことから、[F-18]FAHAがHDAC活性を反映していることが確認された。脳内における特異的なHDAC活性を確認した後、発達に伴う変化について調べた結果、幼少期から成長期にかけて、脳全ての領域でHDAC活性は上昇し、特に、海馬、線条体、大脳皮質および視床の領域で高値を示し、脳幹部および小脳は低値を示した。これらの事からHDACが発達期の脳機能に重要な役割を果たしている可能性が示唆される。
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