申請者の所属する研究チームにおいて、乳児重症ミオクロニーてんかん(SMEI)のモデル動物として、Scn1a遺伝子にナンセンス変異を導入したB6Jマウス系統が作製された。変異型Scn1a遺伝子のホモ個体は、生後14日前後からてんかん発作を生じ、生後20日前後までに全て死亡した。ヘテロ個体は、てんかん発作を起こしつつ散発的に死亡し、生後90日間の生存率が雌雄とも約6割になっていた。この生存率がマウス系統によって異なることや、ヒト疾患において、同一のSCN1A変異を有する家系内における複数の患者の症状や重篤度が大きく異なることから、てんかんの原因遺伝子に加えて、症状に影響する修飾遺伝子の存在が示唆されていた。本研究では、てんかん発症における修飾遺伝子の影響をあきらかにする為に、上記のScn1a変異マウスを異なる遺伝的背景を持つ日本産野生マウスMSM/Ms♂(以下MSM)と戻し交配したところ、次のような結果が得られた。1)MSMの遺伝的背景が増加するに従って生存率は改善した。このことは、MSMの遺伝的背景にScn1a変異によるてんかん発症に対して抵抗性の修飾遺伝子があることを示すと考えられる。2)しかしながら、F1(遺伝的背景B6J : MSM=50% : 50%)の場合だけ、雌のヘテロが有意に低い生存率を示した。F1ヘテロ♀の生存率がB6J系統のヘテロより有意に低いのに対し、F1ヘテロ♂の生存率はB6J系統のヘテロより高いので、F1♀の個体において、てんかん原因遺伝子によって引き起される疾患が増悪したと推測した。F1の雌雄における遺伝的な差は、性染色体だけ(エピジェネティックな効果を除いて)であるので、F1♀の高い死亡率を説明出来る仮定としては、MSM由来のX染色体にてんかん発症に高感受性となる対立遺伝子が存在することであると結論した。
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