ダウン症候群は21番染色体のトリソミーを病因とする染色体異常症であり、精神遅滞を始め多様な症状を発症する。それぞれの症状における原因遺伝子を同定できれば、ダウン症候群の治療法開発に重要な知見を提供でき社会的意義は大きい。そこで本研究では、ダウン症候群の原因遺伝子を探索する遺伝子スクリーニング法の確立を目指しダウン症候群の主徴である精神遅滞に関与する原因遺伝子の探索を試みた。ヒト21番染色体と相同なマウス染色体領域を部分トリソミーとして持つダウン症候群モデルマウスを用いて以下の3段階の実験、(1)モデルマウスの初代神経細胞に特異的な異常(バイオマーカー)を同定する、(2)トリソミー領域の遺伝子発現を抑制する、(3)遺伝子発現が抑制された細胞のバイオマーカーを検出する、で構成される遺伝子スクリーニング法を計画した。(1)について検討した結果、記憶学習の制御に関わるCaMKIIがモデルマウス由来初代神経細胞と出生後間もないモデルマウスの海馬顆粒細胞層において変化していることが示された。記憶学習に関わるCaMKIIの変化は精神遅滞に関与する可能性が高いと考えられることから、CaMKIIをバイオマーカーとして設定した。(2)の遺伝子発現の抑制法はRNA干渉用発現ベクターを用い、(3)の細胞の選択は発現ベクター内に挿入された蛍光タンパク質の発現を指標とした。オリンパスのCELAVIEWを用いて、蛍光タンパク質の発現状態、バイオマーカーの状態、細胞の形態、DNA量を同時に計測することにした。構築した遺伝子スクリーニング法が実行可能かトリソミー領域のRcan1遺伝子に対するRNA干渉用発現ベクターを作製し検討した結果、この遺伝子スクリーニング法による候補遺伝子の探索は可能であることが示唆された。
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