これは、ホスファチジルコリン合成酵素異常によって引き起こされるミトコンドリアの巨大化を伴う筋ジストロフィーの病態機序解明と治療法開発を目指したものである。 1.ヒトにおけるホスファチジルコリン合成酵素遺伝子変異の探索において、15例の先天性筋ジストロフィー患者で、ホスファチジルコリン合成の第一段階を担うコリンキナーゼ遺伝子CHKBに、11種類の機能喪失変異を見出すことができた。ホスファチジルコリンに代表されるリン脂質のde novo合成酵素の遺伝子変異によるヒト疾患は、これが始めての報告であることは大変意義深いと考えられる。これらの変異を持つ患者の臨床症状について詳細に調査し、すべての患者で骨格筋ミトコンドリアの巨大化、知能障害など比較的均一な臨床像を示すことを見出した。 2.CHKBの相同遺伝子であるChkbに変異を持つマウスは、ヒト筋ジストロフィー同様ミトコンドリアの巨大化を示す。このマウスのミトコンドリアではホスファチジルコリン含量が低下し、呼吸鎖酵素活性が低下していることが予備的研究で明らかになっていた。単離ミトコンドリアにリポソーム融合実験を行い、呼吸鎖酵素活性が回復するかどうかを調べたところ、ホスファチジルコリンと陰性荷電リン脂質であるカルジオリピン混合リポソームは、ミトコンドリア内膜と融合し、呼吸鎖酵素活性を軽度回復させることが示された。リポソームを用いたミトコンドリアへのリン脂質補充は、コリンキナーゼ欠損によるミトコンドリア異常の治療に役立つ可能性を示した。
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