本研究は3年間の研究期間を予定しており、平成22年度はその初年度であった。 原発性免疫不全症である慢性肉芽腫症の原因遺伝子として、CYBB遺伝子の変異が数多く報告されるが、遺伝子変異と臨床症状の関連は明らかになっていない。そこで本研究では、マウスiPS細胞にヒト変異型CYBB遺伝子を導入し、ヒト変異型CYBB遺伝子発現マウスiPS細胞における細胞機能の解析を行うことを目的とする。 まず、四種類のiPS誘導転写因子を発現するレトロウイルスベクターを介して、慢性肉芽腫症(CGD)モデルマウスの線維芽細胞に遺伝子を導入して樹立したiPS細胞を用いた。CGDマウスから作製されたiPS細胞では、ヒトのCYBB遺伝子に相当する遺伝子の発現がみられないため、ヒトの変異型CYBB遺伝子の機能を解析する上で有用な方法と考える。また、今回の研究で用いる変異型CYBB遺伝子を有するCGD症例の臨床的経過を検討した。重篤な感染症の既往歴を有しCGD腸炎もきたしたCGD症例を典型的CGDとした。また、NADPHオキシダーゼの活性が残存するが、重篤な感染症(肺膿瘍)をきたした症例を非典型的CGDとした。これらの症例が有する遺伝子変異を、mutagenesis kitにより人為的に変異型CYBB遺伝子を作成した。次に、この変異型CYBB遺伝子をコードするレトロウイルスベクターを作成・精製した。このウイルスベクターを介して、CGDマウス由来iPS細胞に遺伝子導入を行った。ヒト変異型CYBB遺伝子発現マウスiPS細胞を免疫不全マウスへ接種し、3胚葉への分化を確認した。この結果、この細胞が多分化能を有するiPS細胞であることが評価された。今後は、この細胞を用いて、分化誘導し、細胞機能の解析を行う。
|