昨年度までに我々は、高濃度の hepatocyte growth factor (HGF) 刺激によってヒト髄膜細胞のmatrix metalloproteinase (MMP)-9 産生が増加することをin vitroで証明し、出血後水頭症がHGFの作用によって軽快する可能性を示した。一方、実際の患者髄液中には transforming growth factor (TGF)-beta1 が存在しており、出血後水頭症発症に寄与する重要な因子として知られている。今年度は、より実際の病態に近い条件、すなわちTGF-beta1存在下でHGFのMMP-9産生促進作用がどのように変化するのかを検討した。昨年度同様、ヒト髄膜細胞 (HMC) を用い、ヒトリコンビナントTGF-beta1 10 ng/ml 存在下と非存在下において、ヒトリコンビナントHGF 10 ng/ml による刺激を行い、MMP-9 mRNA発現量をsemi-quantitative RT-PCRにて検討したところ、TGF-beta1非存在下ではHGFによるMMP-9 発現増加作用はほとんど認められなかったが、TGF-beta1 存在下においてはMMP-9 発現増加作用は有意に増加することが判明した。 昨年度までの研究では、HGF 100 ng/mlという高濃度の刺激によってHMCのMMP-9産生増加を認めていたが、実際の病態においては、より生理的濃度に近い10 ng/mlのHGF刺激でもMMP-9発現増加が認められた。このことは、HGFを用いた出血後水頭症治療応用の可能性を示すものと考えられる。
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