研究概要 |
本年度は胎生期エタノール曝露が、不安障害を引き起こす機序として胎生期のserotonin 1A receptor(5-HT1A-R)の働きに注目して解析を行った。 妊娠10-20日の間、SDラットに2.5-5.0%のエタノールを含む液体飼料を与え(Et)、対照群にはエタノールを等カロリーのショ糖で置き換えた液体飼料を与えた(Pf)。同時にこれらの妊娠ラットに対し妊娠13-20日に5-HT1A-Rのagonistであるipsapirone(ip:3mg/kg/day)又はsaline(sal)を連日腹腔内投与した(それぞれの母獣の仔をEt-sal群、Et-ip群、Pf-sal群、Pf-ip群とする)。各群の仔の脳を胎生20日齢(ED20)と生後14日齢(PD14)に採取し、ED20の脳では中脳縫線核serotonin(5-HT)神経細胞数の計測と脳内5-HT及びその代謝産物である5-hydroxyindoleaoetic acid(5-HIAA)の定量を行った。PD14の脳では中脳縫線核5-HT神経細胞数の計測と5-HT神経線維の投射部位であるinfralimbic cortex, sensory cortex, basolateral amygdalaを抗MAP-2抗体で免疫染色し、樹状突起の発達を観察した。更に8-9週齢で高架式十字迷路試験を行い、不安様行動を調べた。 ED20では、Et-sal群とEt-ip群の両群共、Pf-sal群と比較して脳内5-HT,5-HIAA量が有意に低下していた。また中脳縫線核5-HT神経細胞数は、Et-sal群ではED20、PD14でPf-sal群と比べて有意に減少していたが、Et-ip群はPf-sal群と同程度であった。またMAP-2陽性線維は、infralimbic cortexにおいては各群間に有意な差は見られなかったが、sensory cortex及びbasdateral amygdalaではEt-sal群で有意な減少が認められた。一方でEt-ip群はPf-sal群と同程度であった。いずれの解析においてもPf-sal群とpf-ip群の間で有意な差は認められなかった。更に高架式十字迷路試験では、Et-sal群はPf-sal群に比べてopen arm滞在時間が有意に長く、不安への感受性が低下していたが、Et-ip群では変化が認められなかった。 本研究から胎生期の5-HT1A-Rの賦活は、胎生期エタノール曝露による5-HT神経細胞数の減少を防ぎ一部投射域におけるシナプス形成を正常化すること、更に不安様行動の異常を軽減することが分かった。これらの結果は、胎生期エタノール曝露動物の不安様行動の異常が、胎生期の5-HT神経系の働き、特に5-HT1A-Rを介した作用の低下に一部起因しているということ示唆している。
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