前年度の結果から、胎生期エタノール曝露がセロトニン(5-HT)神経系の働き、特に5-HT1A受容体を介した作用の低下を引き起こし、それが不安様行動の異常に関与している可能性が示された。本年度は、胎生期エタノール曝露動物の不安様行動の異常が引き起こされる機序を更に追求するため、5-HT神経系を中心とした投射域レベルでの解析を行った。 SDラットを用いて、曝露群には妊娠10-20日の間に2.5-5.0%エタノールを含む液体飼料を与え、対照群にはエタノールを等カロリーのショ糖で置き換えた液体飼料を与えて、それぞれの仔を各解析に用いた。まず胎生20日齢で各群の脳を採取し脳発達に関連が深い5-HT受容体発現(5LHT1A、2A、2C)をRT-PCRにて解析した。胎生期エタノール曝露群では5-HT1A受容体を含むすべての5-HT受容体の発現量が減少しており、これら受容体を介した5-HT機能が低下している可能性が示唆された。 次に我々は、不安様行動試験による脳内5-HT動態の変化を解析するために高速液体クロマトグラフィーにて脳内5-HT及びその代謝産物である5-ハイドロキシインドール酢酸(5-HIAA)量を行動試験前後で調べた。対照群にはほとんど変化が認められなかったが、胎生期エタノール曝露群では行動試験前後で5-HTと5-HIAA量に変動が認められ、行動試験後は減少傾向が見られた。そこで更にマイクロダイアリシスによって同様の行動試験中における内側前頭前皮質での5-HT動態を10分間隔で解析すると、胎生期エタノール曝露群では試験中の5-HT上昇が対照群よりも遅く、試験後の5-HTの減少傾向が認められた。 これらの結果から、胎生期エタノール曝露は5-HT受容体発現を減少させて発達期の5-HT機能を低下させ、その影響は成熟後も5-HT神経系の機能異常として残るものであることが示唆された。このような5-HT神経系の機能異常が胎生期エタノール曝露による不安様行動異常の原因の一端となっていると考えられる。
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