本年度は、ラット仔の深部体温リズムが母獣との分離(離乳)を境に急激に変化する現象の機序を明らかにするため、母獣による授乳・育仔時間を制限したモデルを作製して乳仔期の概日リズムの変化を観察した。また、乳仔期ラットでは、概日リズム中枢である視交叉上核(SCN)リズムに対し摂食リズムがどのように影響するのかについて、時計遺伝子Per1発現量の変化により解析した。 生後13日から18日まで母獣との同居時間を明期の12時間(0-12mom群)、または暗期のみの12時間(12-24mom群)に制限し、深部体温変化を観察した。12-24mom群では体温が暗期に高く明期に低い、成獣と類似したパターンを示したが、0-12mom群では体温が明期に高く暗期に低い、反転したパターンであった。さらに、0-12mom群では、乳仔期にみられる明期直前の一過性体温低下がより顕著になった(低下幅が増大した)のに対し、12-24mom群ではこの体温低下現象が消失していた。摂食リズムがSCNリズムへ与える影響について成獣ラットで解析したところ、摂食時間を明期のみまたは暗期のみに制限してもSCNにおけるPer1発現リズムは変化しなかった。一方、12-24mom群では肝臓およびSCNにおけるPer1発現リズムは同居時間の制限をしていない対照群と同様であったが、0-12mom群では、肝臓とSCNのPer1発現リズムも反転していた。 これらの結果から、幼若型から成熟型への体温パターンの移行には、母獣による授乳・育仔およびそのリズムが深く関与していること、また、成熟脳では摂食やそれに伴う消化・代謝リズムより、光環境がSCNに対して最も強力な同調因子として作用しているが、未熟脳ではSCNリズムの摂食やそれに伴う消化・代謝リズムがより強力な同調因子として作用している可能性が示唆された。
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