ドプラ心弁信号を用いて、胎児心循環不全症例において、子宮内での循環器系機能検査法および評価法を確立し、疾病胎児における心循環機能変調の生理学的機序を明らかにすることを目的とし本研究を開始した。平成22年度は、妊娠20週から40週までの正常単胎妊娠93例を対象としドプラ心弁信号を用いてICT(心等容性収縮期)、IRT(心等容性拡張期)、ET(駆出時間)の妊娠に伴う推移を測定した。妊娠に伴う推移としてICT、ETは妊娠週数にかかわらず一定であること、IRTは妊娠週数の進行とともに延長することを明らかとした。本検査法による各々の測定検出率は一回の検査において約90%であり、臨床の現場での測定方法として利用可能であると判断できた。さらに、本法を用いて子宮内胎児発育遅延、胎児水腫循環障害が起こり得る胎児疾患を中心に妊娠経過における超音波検査による下行大動脈ならびに下大静脈、静脈管のドプラ血流を同時にモニタリングした。その結果、超音波検査での変化が出現する以前から心機能(心収縮能、心拡張能)障害が発生していることが明らかとなった。胎内で妊娠の経過とともに高拍出性心不全となる疾患群では、循環動態が逸脱する過程においてまず心収縮能が亢進すること、その後に心収縮能の低下とともに胎児水腫を招来することが明らかとなった。つまり、高拍出性心不全を来たすと考えられている胎児疾患においてはドプラ心弁信号を用いて心収縮能を観察し、非代償性の心機能不全状態と考えられる胎児水腫を発症する以前に新生児治療へ移行することが本疾患群の予後向上へ結びつくことがわかった。
|