胎児期の低栄養が早産児における腸管機能に及ぼす影響について研究を進めるにあたり、まずNICU退院時の脂質代謝に関する検討を行った。血中Tcho/HDL比、LDL/HDL比、apo B/apo AI比を用いて評価したところ、胎児発育不全を伴う児では伴わない児に比べ、Tcho/HDL比、LDL/HDL比、apo AI/apo B比が有意に高値であったことから、胎内環境が早産児の脂質代謝に影響を及ぼしている可能性が示唆された。さらに腸管機能に影響を与える栄養法の違いとインスリン抵抗性や脂質代謝との関連を調査するため、退院前の早産児を母乳栄養児と人工乳栄養児の二群に分け、前述した脂質代謝の指標に加え、インスリン抵抗性および感受性の指標(HOMA-IR、QUICKI)を用いて両群間で比較した。その結果、母乳群では人工乳群に比べ、HOMA-IRは有意に低値を、QUICKIは有意に高値を示した。また、母乳群ではTcho/HDL比、LDL/HDL比、apo AI/apo B比が人工乳群に比べ有意に高値であったことから栄養法の違いが退院時のインスリン抵抗性や脂質代謝に影響を及ぼしていることが示唆された。これまでの検討により、胎児発育不全は生後早期から退院前のインスリン抵抗性や脂質代謝に影響を及ぼしていることが証明された。これらの指標はメタボリックシンドローム(MS)のリスク因子としても知られ、胎内環境や未熟性と将来のMS発症との関連という観点からも興味深い研究結果と考えられた。胎児発育や生後の栄養法が腸管機能に及ぼす影響について胃電図や腹部超音波を用いた検討を現在継続中である。
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