研究概要 |
最近、担癌宿主において癌局所でのSTAT3の活性化が癌の進展や癌環境の免疫抑制誘導に深く関与していることが報告されている。そこで我々は転写因子STAT3を分子標的とした新たな治療を確立すべく、STAT3の阻害剤として最近報告されたGRIM-19分子を使い、抗腫瘍効果について検討した。過去我々は、R9-PTD(protein-transduction domain)というpolypeptideによるタンパク質細胞内導入法を用いて、in vitroおよびin vivoでの様々な細胞内への導入効果を検討し、その安全性と高い導入効率を報告してきた。我々はこの技術を利用して、癌局所におけるSTAT3に対する分子標的薬(rR9-GRIM19)の開発に成功し、この阻害薬によるin vitroおよびin vivoでの抗腫瘍効果について検討した。 in vitroにおいてrR9-GRIM19は濃度依存性にDNA(binding site)に対するpSTAT3の直接的結合阻害効果を示し、これをpSTAT3発現株に導入させると、転写阻害、増殖抑制効果が認められた。また、in vivoにてA20腫瘍(マウスB細胞リンパ腫)塊にrR9-GRIM19を3日間連続接種(day9,10,11)すると腫瘍の完全消失を認めた。このマウスはA20のrechallengeで再拒絶を示し、かつCTL活性が確認された。一方、nude miceを用いたA20腫瘍塊への同様の接種では拒絶効果が認められなかった。 最近の報告では、STAT3が腫瘍環境において活性化されると樹状細胞の未熟化、Tregの誘導、CTLの機能不全などが生じることが知られている。腫瘍とSTAT3は最近のトピックスであり、STAT3シグナルを阻害することで免疫抑制解除し抗腫瘍効果をもたらすという点で、注目すべき観点と思われる。
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