細菌と真菌の両方を含む皮膚の常在微生物叢は、皮膚科領域の多くの病態に重要な役割を果たしている。しかし培養法の技術的な制約から、この常在微生物叢については培養が比較的容易なものについてしか解明されてこなかった。培養困難な細菌種についての分子生物学的な網羅解析法は、研究代表者の2005年の論文を皮切りに、徐々に実態が解明されつつある。しかし、細菌と真菌の両方を含む常在微生物叢の網羅的な解析の報告はまだなく、常在微生物叢の実態については未だ不明な点が多い。本研究は、細菌・真菌の両方を含む常在微生物叢の網羅解析をめざしたものである。 初年度の平成22年度は、1.細菌・真菌混合サンプルからのDNA抽出法の検討、2.細菌と真菌を見分ける蛍光プライマーの選択の2つを目標とした。1.については、温熱・液体窒素による冷却・アルカリ・真菌破砕酵素を用いた手法の組み合わせにより、最も効果的かつDNAの損傷の少ないDNA抽出法を検討した。試料にはブドウ球菌、マラセチア属、Pseudomonas属、などを用い、SYBR greenを用いた定量法とゲル電気泳動により検討した。その結果、液体窒素による冷却と真菌破砕酵素による抽出法がもっとも効果が高かった。一方、アルカリを用いるとDNA損傷が避けられず、不適であった。この試行錯誤に時間を要したため、2.の検討は次年度の課題となった。また、臨床サンプルの採取を試行的に進めているが、サンプルに含まれるタンパクの解析により、副次的にサイトカインの定量結果が得られ、これをInternational Archives of Allergology and Immunology誌に投稿し掲載決定された。また、サンプル採取時の患者指導より、軟膏外用法のデータが得られ、これをJournal of Dematological Treatment誌に投稿し掲載決定された。
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