(1)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はリンパ球系悪性腫瘍を含む多くの悪性腫瘍に効果が期待されているが、先行する諸外国の臨床経験や本邦での治験においても獲得耐性の出現が問題なっている。我々は獲得耐性のメカニズムを明らかにするために5株のリンパ球系悪性腫瘍の細胞株にValproic Acid (VPA)を持続的に曝露することにより、VPAに対して不可逆的な耐性を獲得した亜株を樹立した。これらの細胞株はIC50値が親株と比べて2倍以上高く、また他のHDAC阻害剤であるVorinostatに関しても同じく耐性を獲得していた。いずれの獲得耐性株においてもVPAの刺激によるアポトーシスは有意に阻害されていた。この原因を探るため、5組の細胞株においてマイクロアレイを用いて元の株と獲得耐性を得た細胞株との発現プロファイルを比較したが、5組全てに共通する異常は見つからなかった。このことはHDAC阻害剤は他の分子標的薬と異なり、極めて多数の作用点を有すること、HDAC阻害剤は遺伝子の発現だけでなく、多数のタンパク質の翻訳後修飾に関わっていることを反映していると考えた。(2)33株の細胞株を用いてVPAに対する感受性と関連のあるタンパク質を蛍光標識二次元電気泳動法を用いて解析した。その結果VPAに対する抵抗性と関連のあるタンパク質としてHSP70のアイソフォームであるHSPA1Aを同定することができた。さらにHSPA1Aに対する阻害剤であるKNK437を用いて解析したところ、単独ではアポトーシスを誘導しない低濃度のKNK437を併用することでVPAのアポトーシス誘導能が有意に亢進した。
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