スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(Toxic Epidermal Necrolysis : TEN)は、マイコプラズマ肺炎感染症が先行する事が知られており、SJS/TENの発症原因と何らかの関連性が疑われているが、どのように関与しているのかは明らかでは無い。我々は重症薬疹である薬剤性過敏症症候群(Drug-induced Hypersensitivity Syndrome : DIHS)およびSJS/TENにおいて、免疫調節機能を司る制御性T細胞(Treg)の数的・機能的変調を見いだした。また、最近我々はマイコプラズマ肺炎(MP)感染症でもTregの機能的変調を見いだしたことから、両者の疾患の間にはTregの機能的変化が深く関与している可能性が示唆された。そこで、本研究ではMP感染症におけるTregの機能解析を行ない、MP感染症がどのようにSJS/TENの発症に関与するのかを調べた。なお、対照疾患として水痘(VZV)及びヒトパルボウィルスB19(PB19V)感染症患者末梢血を調べ比較した。 まず、MP感染症患者末梢血中のTreg数を調べると、急性期・回復期でも健常人とは有意差が見られなかった。これは対照疾患でも同様な結果であった。しかしTregのフェノタイプを調べると、MP感染症ではCCR6^-のTregが優位に多い事が判った。次に、Tregの細胞増殖に対する抑制機能を調べた。通常、ウィルス感染症の急性期ではTregの抑制機能が落ちて、CD8^+T細胞等の抗ウィルス作用活性が高まりウィルス排除の働きを高める。実際、対照疾患のVZV及びPB19V感染症の急性期ではCD4^+T細胞の増殖抑制機能が優位に低下し、回復期では健常人と同程度に回復した。ところがMP感染症では、急性期はもちろん回復期でも抑制機能が低下していた。しかも驚くべき事に、回復後3ヶ月~1年を経過しても抑制機能が持続的に低下していた事を新たに発見した。これらの結果から、MP感染後はCCR6^-Trregの割合が増加し(ただし、Treg数そのものは変化しない)、抑制機能が持続的に低下していることによって、薬剤等のアレルギー反応が極めて起こりやすい状態になり、STS/TENを引き起こす可能性が示唆された。
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