研究概要 |
過去の幻視研究のほとんどが記述的な観察研究や質問紙を用いたインタビューによる研究であり,実験的研究は極めて少ない.これは幻視が自発的な現象であり,検査・実験場面において検出するのが困難であるためである.幻視を誘発し,定量することができれば,種々の心理物理学的研究や,機能的MRI(fMRI)やポジトロン断層CT(PET)を用いた神経画像研究,薬物やリハビリテーションなどを用いた介入研究などが可能になる.我々は先行研究で風景写真を用いた幻視誘発課題を開発したが,提示時間が長く,採点方法が煩雑であるなどの問題点があった. 平成22年度は40枚の顔写真刺激を用いた幻視誘発課題を新たに開発し,レビー小体型認知症(DLB)患者6名,同等の認知障害を有するアルツハイマー病(AD)患者6名に対して検査を施行した.DLBでは,平均33.3%の刺激に対して幻視反応が認められたのに対して,ADでは平均2.1%の刺激に対してのみ幻視反応が認められた.介護者からのインタビューではDLB患者5名において幻視のエピソードがあったが,ADでは幻視はなかった.以上より我々の課題は幻視に発現にかかわる病態を検出することに成功していると考えられた. 我々が開発した課題は,提示時間が2-3秒で,被検者は「ある-なし」の2択によって回答を行うため,神経画像研究などにも広く応用が可能である.平成23年度以降はDLB患者,健常者を対象としたfMRI実験,眼球追跡装置を用いた実験を行う予定である.
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