研究概要 |
平成23年度は平成2年度に開発した40枚の顔写真刺激を用いた幻視誘発課題の有用性について検討した.この課題は白黒のノイズの中に白黒の顔を埋め込んだ画像が8枚,顔を含まないノイズ画像を32枚被検者に提示し,ノイズのなかに顔を誤って認める誤反応(幻視反応)がどのぐらい生じるかを検討する課題である.ノイズ画像は自然画像に特徴的な空間周波数であるといわれている1/f^nの分布を有するノイズを用いた。レビー小体型認知症(DLB)患者33名,同等の認知障害を有するアルツハイマー病(AD)患者34名に対して検査を施行した.DLBは高頻度に幻視を認める疾患である一方,ADで幻視をきたすことは極めてまれである. DLBでは,平均12.5%の刺激に対して幻視反応が認められたのに対して,ADでは幻視反応を認めた者はなかった.介護者からのインタビュー(Neuropsychiatric Inventory)による幻視の重症度と,本課題における幻視反応数は高い相関を示していた(rs=0.400,p=0.021).以上の結果から本課題は,幻視の代用尺度として有用であることが示唆された. 平成23年度は,視線追跡装置を用いた幻視患者の視覚性注意ついてのパイロット研究を行った.2名のDLB患者,2名の健常者が,上述の幻視誘発課題試行中に視線の測定を行った.患者は,顔のないノイズを注視する時間が健常者に比して長い傾向があった.視線追跡測定終了後に長注視時間が長かった部分に何が見えるかを患者に質問し,「顔がある」という内観を聴取することができた。来年度に被検者を増やして,ノイズ画像のみならず風景画像を用いて幻視と視覚注意の関係についてより詳細な検討を行う予定である.
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