【目的】本研究の目的は、統合失調症モデルとして周産期仮死モデルを用い、同モデルの統合失調症類似の障害が胎生期の母体を通じたクロザピン投与により予防されるか否かを検証することにある。今年度は、同モデルにみられるドパミン神経系の応答亢進に対するクロザピンの効果を検討した。 【対象と方法】 SD系雌ラットを雄と交尾させ、膣プラグの確認日を妊娠0日目とした。妊娠ラットを4群に分け、妊娠0日目より21日目まで1日1回、(1)生理食塩水10ml/kg、(2)クロザピン0.5mg/kg、(3)クロザピン5mg/kg、(4)ハロペリドール1mg/kgのいずれかを経口投与した。 妊娠最終日(22日目)に妊娠ラットを断頭し子宮を取り出し、双角子宮の一側を、胎仔を含んだまま37℃に保った生理食塩水に12~13分間浸したのち帝王切開し、約15分間の仮死を経験させ、これを仮死群とした。他側の子宮は速やかに帝王切開し、生まれた仔を帝王切開群とした。また、同日に自然分娩により生まれた動物を経膣分娩群とした。生後、全ての仔ラットに代理母ラットをあてがい、離乳した後は群ごとに3匹/ケージに分けて飼育した。 生後12週齢の時点で、動物に覚醒剤メタンフェタミン(2mg/kg)を腹腔内投与し、投与後2時間の移所行動量を測定した。結果に与える母親への投与薬物(生理食塩水、クロザピン、ハロペリドール)、および、分娩方法(仮死群、帝王切開群、経膣分娩群)の影響を統計学的に解析した。 【結果と考察】 メタンフェタミン投与後、全ての動物が投与前に比べ有意に移所行動量が増加した。仮死群の移所運動量増加は帝王切開群および経膣分娩群のそれに比べ有意に高く、この群におけるドパミン系の応答亢進が確認された。クロザピン、ハロペリドールの前投与については、いずれも、仮死群の応答亢進に有意な変化をもたらさなかった。 以上の結果、および、前年度の結果を総合すると、クロザピンが仮死モデルに対し発症予防的効果があるとする仮説は支持されなかった。
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