うつ病では、その脳内で血流量の低下が起きている。また、脳内血流量はうつ病の症状の改善とともに回復する。本研究では、ヒトCD34陽性・造血幹細胞による脳内毛細血管網の新生を促すことが、うつ病の治療に有効であるかどうかを、ラットを用いて実験的に検証を進めた。本年度は、ヒトCD34陽性・造血幹細胞の末梢投与による脳内毛細血管網の新生を促す手法の開発に主眼をおいた。 まず、マンニトールを投与して血液・脳関門を開放し、Evans Blueによりこれを確認した。次に、CD34陽性・造血幹細胞を尾静脈より注入し、シクロスポリンの連日投与を行って細胞の生着を促した。そして、脳内血管に生着するか否かを、抗ヒト核抗体を用いた免疫組織学的染色法により検証した。しかし、作成した切片にはほとんどシグナルを認めず、幹細胞の生着を確認することができなかった。そこで、肺・肝臓の切片についても免疫組織学的に確認したが、シグナルを認めなかった。投与する細胞量やマンニトールの濃度・速度を変更するなど条件を変更したが、結果は陰性であった。そのため、投与経路を頚動脈に変更して幹細胞注入を行ったところ、脳内毛細血管への生着を確認することができた。今後、さらに移植細胞の生着率が最も高い条件を決定する。そして、移植法の確立後、基礎行動量、不安関連行動、強制水泳テストによる抗うつ効果の検討を行う。続いて、移植細胞の脳内生着率と抗うつ効果の相関、CD34陽性細胞移植による血管新生、神経新生と抗うつ効果の相関を検証し、CD34陽性細胞移植によって生じる抗うつ効果が血管新生、神経新生を介して発現することを確認する。 この研究により、治療抵抗性うつ病に対する新しい治療戦略としての幹細胞移植法への道が開かれる。
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