申請者らは日本人統合失調症を対象に全ゲノム関連解析(GWAS)を行い、神経発達に関連する遺伝子上で関連シグナルを見出した。その中でWntシグナル経路上の2つの遺伝子DKK1、KREMEN1に着目し、統合失調症との関連について詳細に検討を行った。Wntシグナリングは軸索や樹状突起形成、シナプス形成や可塑性に関与するなど神経発達に重要な役割を担う。さらに、その経路上のいくつかの遺伝子と統合失調症の関連、患者死後脳での遺伝子発現変化も報告されている。DKK1とKREMEN1は共同してWntシグナリングに抑制的に働き、両遺伝子とも統合失調症の連鎖領域に位置している点で統合失調症との関連が示唆されていた。本研究では両遺伝子から合計16このcommon variantを選択し、ケース、コントロール合わせて3000名以上のサンプルを用いて関連を検討した。結果、KREMEN1遺伝子のプロモーター領域に位置するrs713526が本疾患との関連を示した(P=0.018)。また両遺伝子のcommon variant間のepistatic interactionについても検討し、複数のvariantの間でepistasisを見出した。本研究の意義は、WntシグナリングのKREMEN1遺伝子と統合失調症の関連について遺伝学的なエビデンスを加えたことである。近年の欧米の大規模なGWASの報告では、一つ一つは効果が小さい多数のcommon variantsが全体として本疾患の遺伝要因の大きな部分を説明する可能性を示した。本研究はその実態を明らかにした点でも意義が高いと言える。
|