研究概要 |
本研究の目的は,その発生頻度において著しい男女差を認める広汎性発達障害の認知特性の理解,神経基盤の解明,および,診断補助ツールの開発を目指すものである。広汎性発達障害の特徴的症状を最も顕著に表わす下位診断群である自閉性障害の認知様式は,英国のBaron-Cohenが提唱する"自閉症の極端な男性脳論"で論じられている共感化傾向が低い一方で,極めてシステム化傾向が高いという特徴を有する。研究初年度となる当該年度には,およそ70名の広汎性発達障害患者の臨床症状,周産期・幼少期データ,各種神経心理学的検査結果,胎生期のテストステロン暴露の程度を反映すると報告されている第II指/第IV指長比率(2D/4D),自記式スケールを用いた共感化・システム化係数などについてデータベースを構築した。また,ゲーム理論を応用した囚人のジレンマ型ゲームを作成し,広汎性発達障害における協力行動や他者心理の理解,相手の選択行動の背後に潜む規則性を解明しようとするシステム化傾向などについて検討を行い論文として報告した。次年度に向けた準備として,脳由来神経栄養因子(BDNF)などの末梢血中の神経栄養因子の計測準備を進め,各種刺激によって血小板から遊離されるBDNFの計測などを予備的に行った。数名の対象に対しては,99mTc-ECDをトレーサーに脳血流SPECTを施行し,その結果を局所脳血流量自動定量プログラム・3DSRTを用いて解析した。今後,更に症例を増やし,社会脳に関連するとされる上側頭回領域,扁桃体,眼窩前頭皮質などの各脳領域の血流について,臨床症状との相関を検討していく。
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