抗精神病薬の末梢血中動態の個人差は大きく、経口用量に基づく血中濃度の予測は困難である。故に医師は、処方用量の調整について試行錯誤を余儀なくされ、結果として過量投与に伴う副作用の出現、または少量投与に伴う不十分な治療に結びつくことが少なくない。そこで、本研究では、新たな手法であるPopulation Phamacokinetics法を用いて、抗精神病薬のリスペリドンの経口用量変更後の血中濃度を予測する手法の信頼性を検証した。本研究にはリスペリドンを服薬中の51名の統合失調症の患者が参加した。まずリスペリドン血中濃度測定のため2回採血を行い、経口用量を変更、その後3回目の採血を行った。そして最初の2回の血中濃度の結果と参加者の人口動態的特徴をPopulation Pharmacoklneticモデルに組み込み、用量変更後の3回目のリスペリドン血中濃度を予測し、実測値と比較した。本モデルによるリスペリドンの血中濃度予測の精度は極めて高く、予測誤差が0.8ng/mLであった。また、予測値と実測値の相関もきわめて高かった(r=0.93)。 また、申請者は、抗精神病薬の血中濃度から脳内ドパミンD2受容体占拠率を予測するモデルの作成も別に行い、高い精度を確認した。加えて、脳内ドパミンD2受容体占拠率と臨床効果に関する体系的レビューおよび解析も行い、60-78%の占拠率がより良い臨床効果が得られることを明らかにした。 上記の結果により、Population Pharmacokinetics法を用いてリスペリドンの用量変更後の血中濃度を予測する手法の精度が確認された。また、血中濃度と脳内ドパミンD2受容体占拠率、さらには臨床効果との関連を明らかになった。この一連のモデルにより、用量変更後の治療効果予測、および適切な治療効果を実現するための経口用量の予測が、可能になりうると期待される。
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