統合失調症は、注意や覚醒レベル、記憶、実行機能などを統合した認知機能面における情報処理の障害が中核症状と考えられる。認知機能には、社会性を伴う社会的認知機能と社会性を伴わない非社会的認知機能に大きく分類されるが、統合失調症は、特に社会的認知機能の障害が強くみられる。中でも対人関係機能の欠陥は、統合失調症の症状の中でも非常に特徴的なものである。人間は、社会性コミュニケーションを通じ、自分の思考・行動に間違いがないか?というセルフリフレクション機能を働かせ、自分の思考・行動を常に確認し社会環境に適応させていくことができる。しかし、統合失調症ではセルフリフレクション機能を働かせることができず、自分の思考・行動を環境に適応させていくことが難しいのではないかと考えられる。自己と他者のリフレクションには、内側前頭葉、楔部前部、島、側頭-後頭領域などが関わっている。自己参照課題における島の働きとして、特に島前部は自伝エピソード記憶、self produced actionと関連すると報告されており、他者ではなく自分、つまりconscious representation of selfのときに強い活動を示す。一方楔前部は自分よりむしろ他人のリフレクションで有意に高い活動を示すことが報告されている。このような結果を参考にして、我々は遅延参照課題を用いて自分の回答を顧みさせた時の脳活動を測定することで、統合失調症の思考状態を明らかにした。その結果、自分の回答について再考しているとき、健常者はセルフリフレクションに関連する前部帯状回の活動がみられるにも関わらず、統合失調症では他者のリフレクションに関連する後部帯状回の活動が認められた。これらの結果から、統合失調症は自分で回答したことでも、自分ではなく他人のことと認識している可能性が示唆された。
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