代謝型グルタミン酸受容体5(mGluR5)は統合失調症、アルツハイマー病、不安障害や薬物依存などの病態において、認知、記憶、学習の面で関与していると考えられている。また、mGluR5アンタゴニストが治療薬として注目されている。しかしながら、mGluR5の活性調節による細胞内シグナル伝達の調整、神経可塑性への関与、他のグルタミン酸受容体との相互作用など未解明な部分は多く、その解明は意義があり重要であると考えている。mGluR5の活性調節機構の解明のため、mGluR5の新規リン酸化部位の検索を行った。その結果、プロテインキナーゼAによってリン酸化修飾を受ける部位を特定した。このリン酸化によってmGluR5の機能がどのように変化し、活性調節を受けるかを解析するため、蛍光顕微鏡を用いたカルシウムイメージング法を用いて細胞内カルシウム動態のin vitroで計時的解析を行った。実験は、mGluR5全長遺伝子を哺乳類発現用プラスミドベクターに導入、さらに、新たに発見したリン酸化部位が欠損した点変異体遺伝子を作成した。点変異mGluR5と野生型mGluR5それぞれを培養細胞系に発現させた。細胞内カルシウムの動態は、カルシウムインディケーターであるFluo-4 AMで標識され、その動態は緑色レーザーにて観察した。それぞれをmGluR5アゴニストにて刺激し、その刺激による細胞内カルシウムの動態の変化を捉えた。一般的には、mGluR5の刺激により、細胞内カルシウムは振動し、この現象は、神経細胞のみならずmGluR5を発現した培養細胞においても認める。実験の結果、細胞内カルシウム振動は、野生型mGluR5に対して点変異mGluR5では著名に減弱している結果が得られた。その差は、統計学的有意差を認め、mGluR5新規リン酸化部位が細胞内カルシウム振動の調節を行っていることが実験的に証明できた。
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