代謝型グルタミン酸受容体5(mGluR5)は統合失調症、アルツハイマー病、不安障害や薬物依存などの病態において、認知、記憶、学習の面で関与していると考えられている。また、mGluR5アンタゴニストが治療薬として注目されている。しかしながら、mGluR5の活性調節による細胞内シグナル伝達の調整、神経可塑性への関与、他のグルタミン酸受容体との相互作用など未解明な部分は多く、その解明は意義があり重要であると考えられた。mGluR5の活性調節機構の解明のため、mGluR5の新規リン酸化部位の検索を行った。その結果、プロテインキナーゼA(PKA)によってリン酸化修飾を受ける部位を特定した。このリン酸化によるmGluR5の機能変化を多角的に検証した。PKAによりmGluR5活性調節による細胞内カルシウム変化が蛍光顕微鏡を用いた実験では、mGluR5全長遺伝子を哺乳類発現用プラスミドベクターに導入、さらに、新たに発見したリン酸化部位mGluR5セリン870残基(Ser870)が欠損した点変異体遺伝子を作成、点変異mGluR5と野生型mGluR5それぞれを培養細胞系に発現させた。細胞内カルシウムの動態は、mGluR5アゴニストにて刺激により振動するが、mGluR5 Ser870が欠損した点変異体では振動が有意に減弱していた。また、細胞内情報伝達の検証では、同じく哺乳類細胞に発現した、リン酸化部位mGluR5 Ser870が欠損した点変異体遺伝子で、mGluR5アゴニストにて刺激によるマップキナーゼリン酸化が有意に減弱していた。PKAによるリン酸化がmGluR5制御している知見は今までなく新規作用機序が証明できた。
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