親の養育が生存に必須である哺乳類の仔には効率よく親の養育行動を引き出す「愛着行動」が本能的に備わっている。例えば四足哺乳類の親が仔を口でくわえて運ぶ時、仔は運ばれやすいように"トランスポートレスポンス(TR)"を示す。TRは不動と姿勢制御(特に後肢収縮)から成り、親の輸送をまねて実験者の指で仔の背中の一部をつまみあげても誘導できる。TRは愛着行動の一つと考えられるが、その神経機構はほとんど分かっていない。そこで本研究はマウスモデルを用いてTRの神経基盤解明を目指している。本年度、生後0日齢(PO)からP20の近交系C57BL/6(B6)マウスTR発達曲線の作成を終えた。不動時間の長さと後肢の姿勢タイプに従って生後の21日間を分類したところ、指でつまんだ場合、顕著なTRはP8からP15にかけて一過的に見られ、P18以降見られないことが分かった。B6マウスはP14頃に瞼が開いた後、運動能力が急速に発達し、離乳するP21では自由に動き回る。TRが起こる時期は運動能力が未発達で親に運ばれる必要があるとともに、親にとっては成長する仔の輸送が困難になる時期でもあり、TRの発現タイミングは仔の発達と相関することが分かった。ReelerとCerebellessという二系統の小脳ミュータントマウスを用いてTR異常を検討した結果、ともに姿勢異常がみられ、TR特有の姿勢には小脳での協調運動制御が関与することが示唆された。さらにTRに関わる感覚刺激入力を調べるため皮膚感覚や平衡感覚の入力遮断実験を行い、新たな知見を得ることができた。首の後ろの皮膚を局所麻酔した仔マウスでは不動反応が障害されたため、不動反応には触られる部位の皮膚受容器の刺激が必須であることが分かった。一方、前庭器官を外科的破壊した仔では正常TRが見られたことから、TR発現に前庭受容器の刺激は不要であることが明らかになった。
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