研究課題/領域番号 |
22791153
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
吉田 さちね 独立行政法人理化学研究所, 黒田研究ユニット, 研究員 (90513458)
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キーワード | 愛着行動 / トランスポートレスポンス / マウス |
研究概要 |
生存するために親からの養育が必須である哺乳類の仔には、効率よく親の養育行動を引き出す「愛着行動」が本能的に備わっている。たとえば四足哺乳類の親が仔を口でくわえて運ぶ時、仔は運ばれやすいように"トランスポートレスポンス(TR)"を示す。TRは仔自身の生存率を高めることに繋がる重要な反応であり、愛着行動の一つと考えられるが、その神経基盤はほとんど分かっていない。そこで本研究はマウスを用いてTRを制御する神経メカニズムの解明を目指している。TRは「不動反応」と「姿勢制御」という2つの要素に大別することができ、親による輸送を真似て実験者の指で仔の背中の一部をつまみあげても誘導できる。 本年度は、昨年度に続きTR誘導に必要な感覚入力の探索を行った他、TR特有の姿勢制御およびTR中の仔の状態について詳細な解析を行った。その結果、ビタミンB6過剰投与により固有覚受容を障害された仔マウスでは不動反応がほとんど起こらなくなることが分かった。また、TR中の仔マウスは後肢をしっかりと縮めたまま、体幹部の柔軟性は維持するという複雑な姿勢適応を示すことが分かった。さらにTR中は瞼が次第に閉じてくることも明らかになった。また、興味深いことに非TR状態の仔と比べて、TR中では侵害刺激を与えた時に反応しない個体の割合が有意に高くなっており、TR中は見かけの痛覚閾値が上がることが分かった。これまでの実験から、マウスTRは生後2週目ごろから離乳前まで一過的に起こることが明らかになっている。上記の期間のうち、生後13日を過ぎると母子分離や新奇環境曝露といったストレス負荷によってTR発現が減弱することが今回新たに分かった。以上の結果から、TRはその制御に複数の脳部位が関与する仔特有の鎮静化反応であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TRの発達曲線の作成、誘導機構の解明、変異マウスを用いたTR異常の解析を終えた。現在、得られた成果を論文としてまとめ投稿準備を進めており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
実験開始当初は、TRを制御する脳部位についてニューロンの転写活性の指標であるc-Fos蛋白質の発現などを用いて形態学的に解析する予定を立てていた。しかし、前述のようにTRはストレス負荷によってその反応性が減弱するため、c-Fos発現誘導に十分な刺激を与えられず、遂行が困難であった。一方、ストレス応答に関わる神経メカニズムはよく研究されており数多くの知見がある。そこで今後は、ストレス応答時に活性化する脳部位を手掛かりになぜTR発現が弱まるのかを調べることで、TRを制御する脳部位解明を進める予定である。
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