躁うつ病には生体リズム異常が高頻度に併存する。本研究は、躁うつ病患者の末梢組織を用いて、気分調節と生物時計の両システムの機能障害にWntシグナル系が介在するか検証する。患者および健常被験者の生体組織由来の初代培養細胞系で、1)細胞内時計遺伝子発現リズムをリアルタイム測定するシステムを構築し、躁うつ病に特徴的な生物時計の障害特性を同定する。同システムを用いて、2)気分および生物リズム調節の両作用を持つリチウムがヒト生物時計システムに及ぼす影響を明らかにする。ついで、3)Wntシグナル系の阻害が時計遺伝子転写サイクルに及ぼすリチウムの効果を修飾するか検証する。これらの課題を通じて、Wntシグナル系がリチウムの細胞作用パスウェイと時計遺伝子群の転写制御にどのように関わっているか明らかにする。 健常男性被験者15名から樹立した初代線維芽培養細胞に概日リポーター遺伝子Bmal1::Lucを導入し、培養細胞中における発光リズムを測定した。その末梢時計リズム特性を決定したところ、日周指向性が夜型の被験者では中間型の被験者に比べ、長めの周期を示すことが明らかとなった。さらに、Wntシグナル系の選択的阻害化合物を初代線維芽培養細胞に投与すると、概日リズム性が阻害された。このことは、Wntシグナル系がリズム形成に関わっていることを示唆している。
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