本研究課題は、放射線治療後に再増殖する腫瘍のモデル細胞群(IR株)におけるニューロピリン1の発現量の増加が血管新生能や細胞接着に及ぼす影響を調査することを目的とする。最終年度にあたる平成23年度は、親株とIR株から細胞外に分泌されるVEGF分泌量をELISA法によって再度比較した。その結果、親株とIR株から分泌されるVEGFの量に差違は認められなかった。この結果は平成22年度に行ったMCF7を用いた結果と異なるものであったが、数回の再実験の施行により両者に差はないものと結論づけた。平成23年度は、IR株におけるニューロピリン1遺伝子発現量の増加が血管新生ではなく細胞接着能の亢進と何らかの関係があると考え、インテグリンとの相互作用を免疫沈降法によって検討した。α5β1インテグリンとの結合は親株、IR株ともみられず、また、αvβ3インテグリンについては親株、IR株とも相互作用が観察されたが、親株とIR株の間でニューロピリン1とαvβ3インテグリンの結合能に差はみられなかった。インテグリンについてはα鎖とβ鎖の組合せが多数存在し、ニューロピリンとの結合の報告もあることから、今後も各種インテグリンファミリーとの結合を検討する必要があると考えられた。一方、細胞内におけるニューロピリン1の細胞内局在を免疫染色法によって再検討した結果、H1299においてvesicle様の局在が多数観察され、その量は親株と比較してIR株では僅か2/3程度だった。また、このvesicle様の局在と早期エンドソームマーカーEEA1との共局在は認められなかった。本研究課題により、放射線照射を生き残った腫瘍細胞において、ニューロピリン1の細胞内局在が変化している可能性が示唆された。本研究成果は米国生化学分子生物学合同学会2011で報告した。
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