研究課題
低酸素応答性のルシフェラーゼ遺伝子を導入した、マウスの肺転移モデルを作成し、肺転移形成時の腫瘍内低酸素を光イメージングで経時的、非侵襲的に観察可能にする。また、低酸素応答因子阻害剤や血管新生阻害剤が転移巣の低酸素や転移の抑制効果についてこのモデルを用いて評価することが本研究の目的である。これまで、尾静脈注射から肺転移が形成されるマウス乳がん細胞にルシフェラーゼ遺伝子、あるいは低酸素誘導性のルシフェラーゼ遺伝子を導入し、IVIS[○!R] Imaging Systemを用い肺転移の光イメージングか可能となるマウスモデルを作成した。新規の取り組みとして低酸素誘導性のルシフェラーゼ遺伝子と同時に恒常的に分泌型のルシフェラーゼ遺伝子を発現させることによって、腫瘍量と腫瘍内の低酸素を同時に定量的に評価できるシステムを確立することに成功した。このモデルを用いることによって肺転移の増大が一定の速度で進行するのではなく、一過性の低酸素応答因子の上昇が肺転移の急速増大に影響をあたえることを明らかにし、また低酸素誘導因子阻害剤の投与により、イメージング上、肺転移の増大が抑えられることを認め、実際に肺を摘出し肺転移の個数やサイズが抑制されることを確認している。平成23年度は、免疫組織学的な検討からの過性の低酸素応答因子の誘導が、腫瘍内低酸素とは無関係に起きていることが明らかになったため、肺転移形成時の細胞内の代謝について検討を加えた。肺転移巣が増大する過程において腫瘍細胞内でlactate dehydrogenase A (LDHA)の発現及び、pyruvate dehydrogenaseのE1サブユニットのリン酸化が誘導されることにより、ミトコンドリア酸化的リン酸化から乳酸発酵への細胞内代謝の変化が起きており、この現象が低酸素に起因しない一過性の低酸素応答因子の誘導につながることを明らかにした。これらの研究内容は癌の転移のメカニズムのうち、特に他臓器に到着したのちの腫瘍の増殖のメカニズムに迫るものであり、このメカニズムの解明は癌転移の新たな治療の確立に有意義なものである。
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