前年度までに甲状腺癌幹細胞のマーカー候補としてALDH1活性、CD326等を同定したが、複数の甲状腺癌細胞株で検討を進めたところ、すべての細胞種で共通のマーカーは確認できなかった。また、マーカーが発見できない細胞株も存在した。次に、これらマーカーによって分離した細胞に放射線照射を行い、放射線感受性の比較検討を行った。非照射細胞におけるコロニー形成率は、マーカー陽性分画の細胞では、マーカー陰性分画の細胞よりも2倍以上高かったが、放射線感受性自体の差は認められなかった。このことから、今回同定したマーカーと放射線感受性は関連していないと考えられた。しかしながら、症例ごとに癌幹細胞マーカーが異なっている可能性も示唆され、未だ未知のマーカーが関与している可能性もある。今後もさらなる研究の継続が必要と考えられた。 さらに我々は、甲状腺癌初代培養細胞に対する新たな培養法を確立した。細かく切断した甲状腺癌組織をコラゲナーゼ処理し、遊離してきた細胞を特殊培地にて培養すると、細胞が増殖を開始し、種々の実験に使用できることがわかった。これら細胞を前年度までに確立したスフェロイド培養法(特殊な低接着培養面を持つプレートと、種々の成長因子を含む無血清培地を組み合わせる事によって、癌幹細胞を選択的に増殖させる培養法)により培養するとスフィアを形成することから、甲状腺癌組織からの初代培養細胞に対しても、癌幹細胞に対するアッセイを行うことができるようになった。 以上、甲状腺癌幹細胞のマーカー候補をいくつか同定する事ができた。また、本研究で確立した癌幹細胞スクリーニング法は、他の臓器の癌における癌幹細胞の研究にも有用なツールとなり得ると考えられた。
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