ラジオアイソトープ(RI)標識ペプチドを用いるがんのアイソトープ治療では、腎臓における非特異的な放射能集積のために、治療効果があるにもかかわらず、治療の継続を断念する例が多くみられる。以前、申請者らは、この「非特異的な腎放射能集積」を示すRI標識抗体フラグメントに対して、尿細管で再吸収される前に腎刷子縁膜酵素の作用で尿排泄性の放射性代謝物を遊離する標識試薬を開発し、適用することで、その腎集積の低減に成功した。本研究では、この成果に基づいて、「以前の検討で用いた抗体フラグメントとは異なり、がん細胞で内在化されて代謝されるペプチドやタンパクを母体とする放射性医薬品にも適用可能な、腎集積を低減する酵素感受性標識試薬」の開発を目的として、発展的な研究を行う。 平成24年度は、まず、本研究の目的とする酵素感受性標識試薬の候補化合物について、その標識前駆体と放射性標識体の合成法を確立した。そして次に、この新規標識試薬が、申請者らが以前開発した標識試薬と同様に腎集積を低減するか否かを評価するため、新規標識試薬を用いて抗体Fabフラグメントを標識し、正常マウスにおける体内分布を検討した。その結果、新規標識試薬の場合、以前開発したものと比べ、腎集積が3倍程度高いものの、一般に用いられている標識法によって作製したRI標識Fabフラグメントと比べれば、腎集積レベルは1/2程度まで低減されていて、以前のものほどではないが、腎集積低減効果をもつことが判明した。今後、腫瘍集積性が向上するか否かを確認する検討を行うと共に、より効率よく腎刷子縁膜酵素によって開裂される構造を見出す検討を進めることにより、本研究の最終目的である「がん細胞で内在化されて代謝されるペプチドやタンパクを母体とする放射性医薬品にも適用可能な、腎集積を低減する酵素感受性標識試薬の開発」を達成できる可能性があると考える。
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