頭頸部癌の治療においては、外科的切除が治療の中心とされる。一方、実臨床では、外科的切除が困難なために放射線治療が中心となる病態にも頻繁に遭遇する。局所病変の進行度によっては、現段階で確立されている定型的な放射線治療を施行しても、腫瘍制御の著しく困難な病態があり、このような難治性の頭頸部癌治療の改善が求められている。他部位の悪性腫瘍に関しては、放射線照射の総線量の分割回数を少なくし、一回で比較的大きな線量を投じる照射法(少分割照射)の有効性が明確にされつつある。本研究は、放射線の危険臓器が近傍に複数存在する特徴を持つ頭頸部癌において安全かつ有効性の高い少分割照射法を確立することを目的とした。 頭頸部癌に対し少分割照射を処方する際には、腫瘍制御確率を通常の処方と同等あるいはそれ以上に向上させつつ、正常組織障害発生確率を通常の処方と同等あるいはそれ以下に低減させねばならない。それらの算出の前提として、放射線治療計画システム内において標的体積や様々のリスク臓器の輪郭設定が精確になされ、線量容量ヒストグラムによるパラメータを設定する必要があった。商用治療計画システムは臨床における放射線治療処方を目的としており、研究上の解析には限界があるため、データをワークステーションに転送し、数値解析テクニカルコンピューティング言語に親和性の高いデータ様式に変換し、さらにそれを同ソフトウェア上で解析することが求められた。商用治療計画システム上の患者断層画像データ・放射線治療処方線量分布データを後の解析に容易な形式に転換し、ワークステーションに転送する一連の手法の確立を試みた。治療計画システムから放射線治療腫瘍学グループ形式の出力を行い、ユニックス端末からDOS/V互換機に同データを同等な形式を保持しつつ転送する接続を試みた。このワークステーション上で、数値解析テクニカルコンピューティング言語Matlabにより同データを展開した。さらに、同言語上で機能する、海外研究機関より提供されているデータ解析ソフトウェアを導入し、商用治療計画システムに比べ可塑性の高い様式でデータを解析できることを確認した。 難治性頭頸部癌に対して、臨床的に実行可能性のありうる線量処方を考案するため、他部位の悪性腫瘍に対して実行されている少分割照射の線量処方・照射体積設定などの線量容量パラメータを参照した。決定された処方線量につき、放射線生物学的な知見を加味して安全性を評価し、かつ有害事象の発生確率を推定した。 今年度は、上記の手法を用いて、実臨床にて使用された放射線治療線量処方による線量分布データを導入し、ことなる放射線治療処方を比較する際に有用であるlinear quadratic modelによる包括的な線量分布換算・置換を実行した。リスク臓器と標的臓器に異なるアルファベータ比が適応されることによると思われる線量処方間の線量分布の差異が確認された。
|