本年度は、1)モンテカルロシミュレーションの実施による陽子線ビームの挙動の模擬計測と実測、2)検出器の特性に関する研究の実施、3)定期的な品質保証(QA)・品質管理(QC)の手法を提案した。また、本年度は研究3カ年計画の最終年度にあたるため、研究成果の取りまとめとその発表にも重点を置いた。 1)については、モンテカルロコードGEANT4を用いて回転型レンジ可変ホイール(RMW)の有無による陽子線の深部線量曲線の違いや、従来のワブラ電磁石を用いた陽子線装置とのビーム特性の違いを比較検討した。検討の結果、従来の側方拡大法と違い、新しい陽子線装置では二重散乱体法を採用しているために、RMWにおいて陽子線エネルギーの損失があることが明らかとなった。そのため照射ポートに入射する陽子線のエネルギーと深部線量の関係は従来と異なっていた。また、これらのデータをもとに、モニタユニット(MU)計算ソフトウェアを開発した。このソフトにより任意の深さにおける投与線量の計算を簡便に行うことが出来るようになったが、陽子線におけるMU計算は世界的にも発展途上であり、今後さらなる計測と検証によってその精度を向上する必要がある。2)については、QA/QCに使用するツールをピックアップし、実測によってその特性と計測精度について追究した。特に、ラジオクロミックフィルムについては陽子線エネルギーレンジの違いによってスキャナで読取時の吸光スペクロルの違いがあり、読取時に三色補正法を使用すると誤差が生まれることがわかった。このため、従来通り陽子線治療においては赤色スペクトルを重要視した方法で読取作業を行うことが望ましい。これらの結果を基盤に3)の新しい陽子線治療装置における恒常的な品質保証項目の項立てとその推奨実施期間を明示した。 これらの研究の結果は日本医学物理学会および日本放射線腫瘍学会において発表した。
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