研究概要 |
メラノーマ治療に用いられるボロン中性子捕捉療法(BNCT)を発展させるために、複合的皮膚透過システムによりボロン化合物をメラノーマ近傍まで効率的に送達させ、さらにメラノーマに高発現しているCD44を介したボロン化合物の腫瘍細胞への標的化により、従来にない送達性能と治療効果を目指した。つまり、(1)CD44に高い親和性を有するヒアルロン酸結合型ボロン化合物封入担体によるCD44を介した腫瘍標的性、(2)ヒアルロン酸の負電荷を利用したイオントフォレーシス、及び(3)エレクトロポレーションによる皮膚透過性亢進、この3つのストラテジーを併用することで、従来にない画期的なメラノーマBNCTの検討を行った。 本年度は、皮膚透過DDSに利用できるボロン担体の調製及び、その特性化を行った。ボロン担体の候補として、皮膚透過性、ホウ素保持性、細胞内取り込みの観点から、ヒアルロン酸を膜表面に結合させたリポソームとヒアルロン酸を高分子シェルに有し、コアの部分にボロン化合物を用いた高分子ミセルについて検討を行った。ボロン化合物としてBSHとBPAの二種を検討したが、BPAについては十分なホウ素量を確保することができず、BSHを用いて調製することとした。いずれの担体もヒアルロン酸をEDCとNHSで活性化エステルとし、リポソームの場合はDSPEと反応後、ミセル移行法で膜表面に包埋させ、高分子ミセルはN-(2-aminoethyl)maleimideを架橋剤としてBSHと化学結合させたものを水和させることで、ミセルを形成させた。ホウ素含有量はリポソームで3,000ppm、ミセルで1,000ppm程度を示し、BNCTに用いることができる含量を確保できた。いずれの担体もメラノーマ細胞内への特異的な取り込みが確認でき、この二種の担体を用いて、京大原子炉においてコロニー形成アッセイによるBNCT効果の検討を行った結果、BSH溶液群、PEGリポソーム群よりも有意に高い抗腫瘍効果を得ることができた。 今後、新規ボロン担体をエレクトロポレーションにより皮膚に適用し、そのBNCT効果を検討する予定である。
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