研究概要 |
時計遺伝子であるbHLH型転写因子DEC1およびDEC2は、時計中枢である視交叉上核で、概日リズムを形成する。一方、免疫応答系や種々の組織分化の制御、癌化や低酸素応答、アポトーシスの制御など、生体内における様々な生理現象に関与することが報告されている。しかし、乳癌細胞における機能は十分に解明されていない。 ヒト乳癌細胞株MCF-7において、TNF-αによりアポトーシスを誘導しDEC1,DEC2の発現を解析した。ヒト乳癌細胞株において、DEC1,DEC2の発現は、TNF-αにより濃度依存性に上昇し、TNF-αで誘導されるアポトーシスに関連していることを証明した。また、siRNAによりDEC2の発現を低下させた乳癌細胞では、Baxの発現、PARPの発現、Caspase-7の発現がそれぞれ上昇していることを確認した。また、DEC2の発現を低下させた乳癌細胞では、コントロールに比べ、細胞増殖能が11%低下していることが示された。しかしながら、DEC1の発現を低下させた乳癌細胞では、細胞増殖能に変化は見られなかった。このような結果から、DEC2はヒト乳癌細胞株MCF-7において、アポトーシス・増殖能において、重要な制御機構を持つことが示唆された。 以上のことから、乳癌の発育進展機構には、DECを介した概日リズム機構が関与している。時計遺伝子の研究は、概日リズム機構を考慮した新たな治療戦略の解明につながると考えられる。
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