【目的】スタチン製剤のpleiotropic effectは他分野において注目されているが、肝移植においては全く未知のものである。本研究ではそのpleiotropic effect(血管内皮機能改善作用と免疫抑制機能)が術後グラフト機能保持に与える影響を解明した。 【実験方法】 レシピエント;雄Lewis rat、ドナー;雄Dark Agouti rat(共に体重約250-300g)にて肝移植強拒絶モデルを作成した。レシピエントとなるラットに術前後1週間の周術期にatorvastatin混餌食を投与し、部分肝移植(全肝の30%)を施行した。コントロール群(通常餌)、低用量群(atorvastatin 0.5mg/kg/day混餌)、高用量群(atorvastatin 2.5mg/kg/day混餌)の3群間での比較検討を行った。 【結果】 (1)スタチン投与群と非投与群の比較 血清AST値:術後1日目スタチン投与群平均589IU、非投与群913IU、術後3日目スタチン投与群平均153IU、非投与群367IUとスタチン投与群で有意にAST値は低値を呈した。 血清ヒアルロン酸値:術後7日目投与群平均913ng/ml、非投与群1420ng/mlとスタチン投与群で低値である傾向が認められた。ただし血清T-Bil値や凝固機能検査では両群間で有意差は認められなかった。 (2)スタチン投与群の比較 肝機能検査の各種パラメータにおいて、高容量群・低用量群の両群間に有意差は認められなかった。 (3)組織学的検討 全例術後7日目以降に強い拒絶反応と思われる所見を呈しており、スタチン投与による拒絶反応の抑制効果は乏しかった。 【結語】スタチン投与により肝移植後早期の虚血再還流障害や肝線維化が軽減される可能性が示唆された。ただしスタチン単剤では移植後の拒絶を軽減する効果に乏しく、充分な免疫抑制作用を呈しなかった。スタチンの至適投与量に関して検討の余地あり、今後モデルの改良を行いながらさらに機序の解明を継続する必要がある。
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